『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

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「どろろ」に影響を受けた作品  第四回  『ベルセルク』

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【 あらすじ 】
 母は虐殺され、その遺体が吊るされた木の下で主人公 “ ガッツ ” は生まれる。
 母の遺体の下で産声を上げていた “ ガッツ ” は、傭兵部隊の隊長ガンビーノに拾われ成長。彼を可愛がってくれた義母は病で死に、信頼していた義父に裏切られ、彼は部隊から出奔し、「剣」のみを寄る辺として傭兵に生活の術を得る。
 傭兵として放浪の旅路の果て、自分より強い “ グリフィス ” と出会うことで、常勝の傭兵部隊「鷹の団」の一員となり、仲間を得て束の間の平穏が訪れるが、再び運命の歯車は回りはじめ、彼と仲間を地獄へ導く。
 …そして “ ガッツ ” の壮絶な復讐の旅路が始まる。

 

ベルセルク』は1989年から【 アニマルハウス 】で連載開始。その後、白泉社発行の漫画誌ヤングアニマル 】にて現在も連載中のダークファンタジー、既刊は現在40巻、( 休載も多く、休載期間が年単位になることもある )

 2002年には第6回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞。
 1997年・2016年にテレビアニメ化、2012~13年にかけて劇場アニメ化。

 2002年の第6回「手塚治虫文化賞マンガ優秀賞」受賞時に三浦健太郎先生が《 手塚作品で一番好きなのは『どろろ』。かなり影響を受けていますね。そのほか自分の好きなマンガや小説のごった煮の中から、この『ベルセルク』という作品は生まれてきた。暗くて、ドロドロして、妖怪めいたものが出てくるファンタジーがやりたかったんです 》と語っています。
 生贄として魔物に捧げられるが辛くも生き延びる、欠損した身体を武器で補填、暗く陰惨な世の中を彷徨する、など主人公を構成する要素に共通点があり『どろろ』の影響が見られます。この作品での “ どろろ ” に相当するキャラクターは2人、「トリックスター」としてお調子者の “ 妖精パック ” と、気が強く男装の「鷹の団」千人長で「ヒロイン」の “ キャスカ ”
( この辺りのキャラクターの配置は見事 )
 自身の生を取り戻そうと『踠く者』の物語でもあり、得るものと失うものの物語でもある、良質の人気ダークファンタジーです。

 また、ダヴィンチ増刊の【1億人の漫画連鎖 ( コミックリンク) 】でも、『ベルセルク』のリンク作品として『どろろ』が挙げられています。
どろろは一見『ベルセルク』とは関わりのない作品のように思えるが ( 特に絵柄から )、宿命的な出生や、身体の欠落と武器化、闘う動機、モンスターハンティングなど、多くの点で “ 裏ベルセルク ” ( 手塚先生には失礼だが ) と呼べる作品である。その時代の「ヤバイぜ」というところをかすっているのも価値観 》と紹介されています。

 

 1999年に石原都政下で「児童ポルノ禁止法」が成立、書店がこれに過剰な反応を見せて自主的に問題があるとした漫画を店頭からは撤去。( 紀伊国屋事件 )
 この時『ベルセルク』は不適切な描写があるとして撤去されています。
ベルセルク』以外では『バガボンド』『あずみ』等が撤去されました。
 このような芸術的に評価の高い作品も撤去された事で、当時は大きく話題になり、表現の自由を巡って様々な議論を呼びました。
・『バガボンド』『あずみ』は文化庁メディア芸術祭マンガ部門で受賞
・『ベルセルク』は手塚治虫文化賞マンガ優秀賞受賞

 1989年の青少年条例による「有害図書販売規制」から「児童ポルノ禁止法」までの行政の動きは、1950年、岡山県での「図書による青少年の保護育成に関する条例」制定を嚆矢とする「不良出版物絶滅運動」への流れをなぞっている様で、この歴史が繰り返されているのを実感します。
 青少年の健全育成を大義名分に繰り返される漫画アニメなど創作物の表現規制という、この半世紀、創作者が晒されている問題の風上にあった作品。
 そういった意味でも『ベルセルク』は『どろろ』とリンクしている作品のような気がします。