1970年代には米ソ・デタントにより一時東西冷戦の緩和が見られましたが、80年代に入り、ソ連のアフガニスタン侵攻により状況は激化。しかし東欧諸国の革命により社会主義勢力の衰退と言う形で冷戦は終結に向かい、1991年ソ連の崩壊により幕を閉じます。
しかし、アジアでは北朝鮮の大韓航空爆破事件、中国の天安門事件など、冷戦構造の継続を思わせる事件が起きており、国際社会は不安定な時期でした。
また、原子力発電の普及が進んだこの時期、1986年4月「チェルノブイリ原発事故」発生。日本でも反原発運動が盛んになります。
この時期の日本は、第二次オイルショックを経て、経済は安定成長期に移行。
1985年のプラザ合意以降、円高ドル安は進行し、この時の金余りから日本経済は「バブル景気 ( 1987 ~ 1991 )」へ突入します。
1980年代後半は経済の華やかな面とは裏腹に不安定な国際情勢が影を落とし、何処か「世も末路線」といった厭世的な雰囲気も漂っていました。世紀末までのカウントダウンもあって終末ブームは続いており、それはこの時期の創作物にも影響が見られます。
マンガではニューウェーブとして大友克洋先生が注目され、サイバーパンクが新しいSFとして人気を博し、電脳社会の到来を予感させる時代でした。( 1982年6月『ブレードランナー』公開 )
この1980年代後半から1990年代にサブカル誌のサイバーパンク特集などに『どろろ』が取り上げられているのが散見されるようになります。
週間SPA(扶桑社):記事
【 サイバーパンクとは 】
1980年代に入り、自然科学の理論に基づいた従来のSF、これを厳密化したハードSF、非現実な要素を加えたスペースオペラや、サイエンス・ファンタジー、これらに対するカウンターとしての思想運動が発生、それを体現する小説に盛り込まれた要素・スタイルの呼称。
( “ サイバーパンク”という単語は、1980年、ブルース・ベスキ氏著作の短編タイトルとして登場。その後、1985年にSF誌の編集者であり評論家であったガードナー・ドゾワ氏によって作風を示す新語として用いられ、SFのサブジャンル・思想・スタイルを示す言葉として定着 )
典型的なサイバーパンク作品では、従来のSF作品の持つ非現実性のカウンターとして、リアルな現実性が意識され、現実性を体現するテーマとして人間心理の描写に力点が置かれた作品が多いことが特徴となります。
さらに心理描写においても、より現実性を持たせる為、社会心理学の「対立・葛藤」の発展形と看倣される「構造・機構・体制」に対する反発 ( いわゆるパンク ) や反社会性を作品主題のもう一つの軸として多用し、これらの内包する「社会や経済・政治などを俯瞰するメタ的な視点」を背景として描写に加え、既存のSFとは一線を画することで成立しているSFジャンルです。
多くのサイバーパンク作品がありますが、これらには共通点があり、1988年のテーブルトークRPG『サイバーパンク2.0.2.0.』を制作したマイク・ポンスミス氏は、
《 サイバーパンク作品に登場する主人公たちは、基本的に社会的に弱い立場となっています。そんな中、彼らが新しく発見した技術や誰も使ってないような古い技術、再利用された技術などを組み合わせて、巨大勢力と戦い、自由を勝ち取る内容のストーリーが展開されます 》と説明しています。
“ 百鬼丸 ” はサイボーグとして、これらサブカル誌内の記事で取り上げられていますが、「主人公は社会的に弱い立場」「新しく発見した技術や誰も使ってないような古い技術、再利用された技術を使用」「巨大勢力 ( 構造・機構・体制 ) との戦い」「自由を勝ち取る」など、原作『どろろ』のストーリーにはサイバーパンク的な要素が多く、
主人公の一人 “ 百鬼丸 ” が “ 和製サイボーグ ” といえる存在だったこと以外に、これらの類似が記事に取り上げられた理由だと考えられます。
ーそのような意味においてカネコアツシ氏の『サーチアンドデストロイ』はテーマ・アレンジともに着眼点の良いリメイクだったのではないかと思います。リメイクと言うよりは『どろろ』の骨子、テーマの流用と言う感じはしますが、