【『ジャングル大帝』は黒人差別だったのか?】
この一連の「黒人差別表現抗議事件」当時に、
【 がちゃぼい一代記 】※の一場面を取り上げ、手塚氏も黒人に対する差別意識を持っていた、と手塚プロダクションに抗議する人もいたそうですが、【 誌外戦 】で松谷氏が《 あのマンガは、黒人からの抗議をかわすために黒人をスマートに描くといった、アメリカのテレビ局の皮相な対応を手塚治虫の貪欲な漫画家精神が風刺的にマンガ化したもので、そんなことでは差別問題の解決にはならないよと言っているようにも受けとれます 》と語った様に、本質的な議論・対話による問題の解決ではなく、“黒人を美しく描く”ことで抗議の矛先を逸らそうとしたアメリカのテレビ局への皮肉の様にも受け取れます。
手塚作品の根底に流れるテーマを考えれば、手塚先生が意識的に、差別表現を描いていた、とは思えず、逆に本間氏が語っていた様に手塚作品には「弱者に寄り添う視点」が感じられると思います。
…が、これも、その作品を読む人によって感想は変化するので、「これがこう」とは言い切れず ( なんとも歯切れの悪いことなのですが、) そんなアレコレも含めて、本事件は手塚先生が亡くなられてからの抗議事件であり、手塚プロダクションも対応に苦慮されていた様子が伺えます。
※ ( 1960年代、手塚先生がアメリカのテレビ局に「ジャングル大帝」を紹介した際に、「なにしろいまアメリカ国内は、黒人問題がうるさくってねぇ」「黒人はスマートな美男子に白人はみにくい悪人にかいてください」といわれ、手塚先生本人が「さまにならねえなァ」と言っている場面 )
この時期はマンガの黒人描写への抗議以外にも、性表現も含めて ( 差別的と見做された ) 多くの創作物が抗議の対象となりました。黒人描写への抗議は、手塚作品だけで無く、「週刊少年ジャンプ」の『こちら亀有公園前派出所』『ドクタースランプ』『ついでにとんちんかん』『燃えるお兄さん』、藤原カムイ氏の『チョコレートパニック』、石ノ森先生の『サイボーグ009』、黒人ボクサーが描かれた『はじめの一歩』など、多くのマンガが抗議を受けており、藤子先生の『オバケのQ太郎』も「国際オバケ連合・人食いオバケ」で “ 黒人差別をなくす会 ” から抗議を受けて20年以上絶版になっています。
有名な作品は衆目を集めるので、後に経緯が記事に纏められたり、ファンが復刊に向けて活動したり、と「タイトル」は残りますが、ひっそり削除されて誰にも知られることなく消えていった作品も多くあります。また、有名作家の作品でも単行本に未収録で、読者の記憶から消えていった作品も多く、手塚先生の作品でも身体欠損表現がある作品、精神疾患を取り扱った作品、在日外国人などマイノリティーな人々を扱った作品、と多くの作品が ( 手塚プロダクションが先生の御意志を尊重しての事と思いますが ) 未収録です。
ファンとしては残念な限りですが、先生の御意志では仕方がないのでしょう…… と、思うのですが、改めてこの時代にそれらの作品に光を当てて検証して頂きたい。とも、思うのです。
本棚をゴソゴソしていたら出荷端境期の本が偶然『ジャングル大帝』でした。
出荷再開当時に印刷が間に合わなかったものは、このような折り込みチラシのかたちで「読者の皆様へ」が封入されていました。