『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

「どろろ」を中心に「手塚作品」の記事を掲載。カテゴリーは【書籍・舞台・表現規制・どろろのあゆみ・どろろに影響を受けた作品・「神話の法則の三幕構成」で解析する「どろろ」・ブラック・ジャック、ロボトミー抗議事件・ジャングル大帝、黒人差別抗議事件】

水星の魔女

 さて、去年は素敵なアニメ作品が目白押しで、製作スタッフの皆様に感謝しつつ楽しく視聴しておりました。そのひとつ『機動戦士ガンダム・水星の魔女』は『鉄血のオルフェンズ』以来五年ぶりのガンダムシリーズということで放映以前から話題になっており、1クールの最終回を終え、ネットは嬉しい? 悲鳴で阿鼻叫喚の様相を呈し、早くも今年四月からの2クールに熱い期待が注がれているようです。

 この『水星の魔女』主人公「スレッタ・マーキュリー」が『PROLOGUE』に出てきた「エルノラの娘、エリクト・サマヤ」の成長した姿とすると作中の時系列を含め、いろいろ辻褄が合わないので、何らかの理由で愛児を失ったプロスペラ ( = エルノラ ) の作成したクローン?  GANDシステムを使った全身義体? と様々な考察がネットを賑わしています。
 2話でスレッタが検査着を着ていた姿から考えると全身義体は無さそうですが…
 クローン体説は、お母さんは自分の卵子も子宮も使うことができるので有りそうですね。この時代のクローン技術がどうなっているのかはわかりませんが、
ー と、つらつら考えていて … 思い出したのがみなもと先生の『トビオコンプレックス』、前回記事のみなもと先生のエッセイです。 とはいえ、仮面のお母さんの目的は何なのか? が、1クール終了の時点で判然としていないので ( 復讐だけでも、「愛娘」を取り戻すことだけでも無い様子ですしねぇ … ) まだ何とも言えない状況ですが、
 また『機動戦士ガンダム・水星の魔女』は登場人物の名称等からシェイクスピアの『テンペスト』を下敷きにしているという考察もあり、復讐と呪いは、この作品の外せないコンセプトのようで … それこれを踏まえて、この物語の対立軸と、その対立する二項を推理すると、二項は「大人 ( 過去 ) と成長過程にある子供 ( 未来 )」「呪いと寿ぎ( = 祝福 )」でしょうか、
 復讐は過去にとらわれることであり、子供たちが未来 ( 成長 ) を指していると思うので、この物語の対立軸は「復讐あるいは過去にとらわれた大人と過去に心的外傷を追うほどの体験をした大人が親だった為に成長し辛さ ( 呪 い ) を抱えた子供」で、この対立軸から考えられる物語のテーマと結末は「呪われた子供の成長 ( = 祝福 )」でしょうか、

≪ どうしても物語というのは、二項対立にならざるを得ない。二項対立でないと、実は物語それ自体が成り立たない ≫

 また、呪い ( 兵 器 ) と寿ぎ ( 医療技術 ) という二面性をもつGAND技術も『エアリアル』という自我を持っている? 機体も、面白い「姥皮」です。(『エアリアル』は「姥皮」というより、「主人公」のひとりかもしれませんが ) まあ、科学技術自体がこの二面性をもつものなんですけども …

 巨大ロボット物の「ロボット」が主人公の「姥皮 = 移行対象」であることは、※大塚英志先生のご指摘の通りで、主人公の成長 = 物語の最後に失われる ( 破壊される ) 筋立ては多くの作品で見られます。 エヴァの「アンビリカルケーブル (Umbilical cable)」は、文字通り、「へその緒 (Umbilical cord)」ですし、今作の「エアリエル」と「スレッタ・マーキュリー」もケーブル ( ハーネス? 特に意味はないかもしれませんが ) で繋がれています。 物語の最後にどのような「成長」が成されるのか解りませんが「移行対象」としての機体を必要としなくなる結末 ? になるのではないかと思います ?
「学園もの」の結末に「卒業」は少なく無く、『キルラキル』も「極制服」( 移行対象・姥皮 )を脱いで「卒業」、『少女革命ウテナ』ではアンシーの移行対象であるウテナが消え、卒業の代わりにアンシーが「門を出る」最終回でしたし、

 

※ 第2項 ートトロもエヴァンゲリオンも「ライナスの毛布」である
≪ そう考えると、この主人公の成長を促し、かつ子供と大人の不安定な時期を庇護するために纏う「ライナスの毛布」のバリエーションとしては『機動戦士ガンダム』のモビルスーツや『新世紀エヴァンゲリオン』のエヴァ・シリーズも同じ質のものかもしれません。モビルスーツなど、まさに「スーツ」、つまり身に纏うもの、なのですから。数多くあるロボットアニメーションの中でも「ガンダム」や「エヴァンゲリオン」が特別な存在であり続けられるのは、思春期の少年たちにとっての「ライナスの毛布」としてのロボットを描いているからといえるかもしれません。 【キャラクターメーカー―6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」・大塚英志】 (アスキー新書) – 2008/4/1 ≫


 幼児的万能感を満たすための姥皮 ( = ライナスの毛布 ) が必要なくなったとき、疑似的な「子宮」から自分で自分自身を生み出すことが「成長」なのかもしれません。
 スレッタちゃんの場合はミオリネさんが産婆さんとしてサポートしてくれそうですが ?


≪ 成長の意味とは、誰からも自分が必要とするものをもらえなくても、自分で獲得できるということである ー ハリウッド脚本術:ニール・D・ヒックス ≫