『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

「どろろ」を中心に「手塚作品」の記事を掲載。カテゴリーは【書籍・舞台・表現規制・どろろのあゆみ・どろろに影響を受けた作品・「神話の法則の三幕構成」で解析する「どろろ」・ブラック・ジャック、ロボトミー抗議事件・ジャングル大帝、黒人差別抗議事件】

『メトロポリス』

メトロポリス』は、手塚治虫氏の同名漫画『メトロポリス』を原作として制作されたアニメーション映画。 登場人物の設定等に変更があり、ストーリーも原作から異なったものとなっている。2001年(平成13年)5月26日劇場公開。 りんたろう監督、大友克洋脚本、アニメーション制作会社はマッドハウス

【 あらすじ 】
 人類とロボットが共存し、高層建造物が立ち並ぶ華やかな巨大都市国家メトロポリス」、この都市は新しく建造された巨大塔「ジグラット」落成の祝賀ムードに包まれていたが、祝賀の華やかさとは裏腹に下層の貧民街では、ロボットによって職を失った貧民層が、現体制への不満とロボットに対する差別感情を燻ぶらせていた。
 そして、「ジグラット」建造を主導したメトロポリスの有力者「レッド公」は国際手配犯のサイエンティスト「ロートン博士」に依頼して、人類を超越したロボットを密かに制作、極秘にある計画を進めていた。
 しかし、レッド公の養子で政治結社マルドゥク党のリーダー「ロック」はレッド公の計画を知り反発。独断でロートン博士の研究所を強襲し「超人 ( ロボット )」を破壊する。ロートン博士を追ってメトロポリスを訪問していた「私立探偵・伴俊作」とその甥「ケンイチ」は、研究所の火事に遭遇。伴俊作とはぐれたケンイチは不思議な美少女「ティマ」と出会う。

 米国でも劇場公開された本作品は、米国の映画批評家からの好評を得て、米国映画評価ウエブサイトRotten Tomatoesで91点を獲得。映画評論家ロジャー・イーバートは、満点評価を与え、アニメ史上最高の作品の一つであると賞賛し、緻密な作画の質とテーマ性を高く評価している。 しかし、『メトロポリス』総制作費は10億円、国内興行収入は7.5億円と興行的に成功したとは言い難く、原作から大幅に内容が改変されたこともあり、公開時には賛否両論の評価・感想がみられた。

 

 さて、ここからは私の私見ですが、本作の米国での高評価は、
 天にも届く塔に超人の座、神を超越しようとした人の傲慢による塔 ( バベル ) の崩壊。父と息子、兄弟間の相克、レッド公を挟んでロボットのティマと養子のロックは疑似的な兄弟関係にあり、どちらかが親 ( 創造主 ) に愛され、もう片方が愛された兄弟を憎悪する構図は聖書の「カインとアベル」。 ロボット ( 移 民 ) が現れたことにより労働を奪われ貧困にあえぐ市民が為政者でなくロボットに怒りの矛先を向け、ラストに向かって雪崩を打つように同時多発の都市崩壊。
ー と、聖書に由来するモチーフと移民国家である米国にはおなじみの舞台が関係しているような気がします。

 また、この『メトロポリス』には面白いキャラクターの計算がされていて、
 ミッチィ − ロック = アトム
 どこで拝読したのか失念したのですが、原作ミッチィから ( 悪 役 ) ロックを引くと無垢なロボット・アトムになるという説。
 この映画「メトロポリス」でいうと、
 ミッチィ ( 両性具有 ) - ロック ( 男 性 ) = ティマ ( 少 女 )
 原作ミッチィから父 ( 創造主 ) との相克・憎悪等、負の部分を抜き出した後の無垢な存在がティマという訳です。ここに正義感の強い「ケンイチ」が絡むと単純な善悪の二項対立じゃない三角関係が出来上がり、舞台となった「メトロポリス」も為政者と貧困に喘ぐ都市貧民の対立に、さらに虐げられているロボットがいて、これも三角関係。
 そして、ストーリーは同時多発に進行し、ラストの都市崩壊に向けて一気に雪崩込んでいく、 … ので、登場キャラクターがさほど多いわけでは無く、それほど入り組んだストーリーラインでも無いのですが、やや複雑で解りにくい印象を受けるので、
これが一部酷評につながっている原因の一つでは無いでしょうか ?

 

 

 演出として狙っているモブシーンの混沌 ( 同時多発 ) 、挿入曲のジャズも含めて、個人の好みの会う合わない ( 感想の良・否 ) がはっきり分かれる作品となっている様で、辛口レビューが多いのも、この辺りが原因 ? ですかねぇ、
 私は「同時多発」が好きなので快哉を叫んだ口ですが、
 当時の「ぴあ」での評価はこんな感じですね。

 

 

 また、この『メトロポリス』と同時期には※1『スチームボーイ』が製作中で、この作品のタイトルは『鉄腕アトム』の米題『ASTRO BOY(アストロ・ボーイ)』へのオマージュで、内容もそれを意識したものになっています。
 本作の主人公「ジェームス・レイ・スチム」少年は天才家系の「スチム家」に生まれ、祖父も父も本人も天才科学者で、ストーリーはその祖父と父が共同開発した「スチームボール」が発端となって展開されるのですが、これは人類にとって「危険な新兵器」にも「福音をもたらす偉大な発明」にもなりうるエネルギーを秘めていて、それを「新兵器」に使いたい父ちゃんと、それを阻止しようとするじいちゃんの「壮大な ( イギリス全土を巻き込んだ ) 親子喧嘩」なんですね、この話は、
 レイ少年は、お父さんとじいちゃんの板挟みになって「天才」なのにオロオロするしかなくて※2、これは十万馬力のロボットなのに、お父さんの天馬博士に苦労する「アトム」と同じで、子供の背負っている「何か」、アトムの命題では呪いと表現されていましたが「子供の弱さ」、そこから派生する辛さも描いている冒険譚なんです。

 

メトロポリス』で名探偵ヒゲオヤジの相棒にロボット刑事「ペロ」という配役もなかなかに憎い演出で、大友先生の手塚愛は良いんですよ、
続編の『スチームガール』、 お嬢様の大活躍が観たかったな …

 

※1『スチームボーイ』(STEAMBOY)は、大友克洋氏が監督した『AKIRA』『MEMORIES』に続く劇場公開アニメ映画。製作期間9年、製作費24億円、作画枚数18万枚で描く 19世紀、架空のロンドンを舞台に繰り広げられるスチームパンク空想科学冒険活劇。
19世紀半ば、産業革命で社会構造の変革を迎え繁栄する大英帝国。発明の好きな天才少年レイは、祖父と父が開発した世紀の発明“スチームボール”をめぐる陰謀に巻き込まれていく。スチームのゆらぎなどの“質感”の描写、19世紀英国の風景や建築物に基づく緻密で美しい背景美術、メカデザインへの徹底的なこだわりなど見どころも多い「冒険活劇」だったが、日本国内における興行収入は11億6000万円に留まり、興行的には成功したとは言い難い結果となった。

※2 最後にレイは祖父の意思を継いで父の野望を阻止するためにー“スチームボーイ”になるんですが、…というか、この話はレイ君が“スチームボーイ”になるまでの冒険を描いていて、この後も、彼はおとんに苦労させられながら活躍するんだろうな “スチームボーイ”の今後の活躍を刮目して待て! みたいな感じで終わるんですよ。