『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

「どろろ」を中心に「手塚作品」の記事を掲載。カテゴリーは【書籍・舞台・表現規制・どろろのあゆみ・どろろに影響を受けた作品・「神話の法則の三幕構成」で解析する「どろろ」・ブラック・ジャック、ロボトミー抗議事件・ジャングル大帝、黒人差別抗議事件】

「妖怪馬鹿 化け物を語り尽くせり京の夜」 

 【 妖怪馬鹿 】 京極夏彦・多田克己・村上健司 著  新潮OH!文庫

《 妖怪馬鹿 ― お化けを愛してやまぬ者どものこと。本書は、小説家・京極夏彦が、盟友である多田克己、村上健司と、妖怪という文化現象について語り尽くした、七時間の全記録である。三人はバラエティに富んだ話題を俎上にあげつつ、やがて日本文化の深奥へと迫ってゆく。京極描くさし絵漫画を多数収録、新潮文庫収録にあたり語り下ろし座談会を加えた、永久保存版・妖怪バイブル 》 ― BOOKデータベースより

 

 後年、新章「二十一世紀の妖怪馬鹿」が加筆され、新潮文庫から復刊。

 京極夏彦氏、多田克己氏、村上健司氏、と、博覧強記な「妖怪馬鹿」の縦横無尽な座談会。東京駅を皮切りに、移動中の新幹線で、京都の旅館で … 尽きることない “ 妖怪談義 ”の記録。

 『どろろ』の「どんぶりばら」元ネタへの言及があったのでご紹介します。

 

第六章 - そんな妖怪、何処にも居らぬ。

【 びろーんの謎 】

多田 びろーん。

青木 それそれ。それ、妖怪?

京極 びろーんってのも困ったもんだなあ。

  あれは塗仏なんだよね。だってびろーんとして紹介されてる妖怪の図に、塗仏ってちゃんと書いてあるんだもの。びろーんなんて何処にも書いてやしないんですよ。

青木 京極さんの『塗仏の宴』を読んでいたときに、「そういえば、この妖怪の塗仏じゃない名前を見たことがあるなぁ」と思ったことがありましたっけ。ああ、びろーんだったんだ。それは誰の?

京極 佐藤有文さんですね。それにしてもびろーんはないだろうと思うんですよ。付けるにしても、もうちょっと別の名前を付けて。

多田 手塚治虫も「どろろ」に出しているんですよ。スッポンか亀の妖怪で、びろーんに似たようなものを。「飯食え、飯食え」って鉦叩く妖怪。「どんぶりばら」だっけ。

京極 何かで読んだんですが、ご子息の手塚眞さんの談によると、「『どろろ』の妖怪は僕が子供の頃に描いたのを親父が参考にして描いた」んだそうで。手塚眞さんは、ご存知の通り「妖怪天国」なんか作っちゃう妖怪マニア。だから間違いなく佐藤有文の本を読んでいるはず ―推理だけど。

多田 びろーんが三段階で伝わっている。

青木 有文 → 眞 → 治虫。 びろーんの伝播の過程。

京極 有文さんのびろーんに関する説明はね「『びろ、びろ、びろーん』という呪文をとなえて仏様に化けようとして失敗した妖怪だ」、と。どう考えたって、江戸時代の本に「びろ、びろ、びろーん」なんて書いてあるわけないんですが。びろーん。古文書に書いてあるんなら見てみたいですよ。

多田 荒俣先生も影響を受けたくらいインパクトが強い存在だからね。

青木 あの荒俣先生が!

 

… と、あの荒俣先生も関心を寄せていた侮れぬ妖怪 “ びろーん ” 、佐藤有文著『日本妖怪図鑑・ジャガーバックス』によれば、この妖怪は「びろ、びろ、びろーん」という呪文をとなえて仏様に化けようとして失敗し、こんにゃくのようにプルプルになってしまった妖怪で、そのプルプルした尻尾で人間の顔や首を撫でる。塩をかけると消えていなくなる。と紹介されています。

 対談はこの後、びろーんから怪獣ドドンゴへ …  怪獣と妖怪の濃い関係へと話が繋がって行きます。続きが気になる方、妖怪好きの方には御一読をお勧めします。

 復刊したので入手しやすくなっている?かな、ジャガーバックスは復刊後もamazonで高騰していて、そのお値段に「目の玉が飛び出」ました ( 笑 )