『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

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どろろのあゆみ番外編 TVガイド・子供番組大特集 昭和四十四年五月二・九日合併号

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 『どろろ』放映時のTVガイド ( 当時のお値段一冊80円 ) に、
【 幼児むけ番組がガタ減りした理由、スポンサーに嫌われる子供のファン 】
 という記事が掲載されており、興味深かったので内容を纏めてみます。

 昭和44年5月2・9日合併号の記事によると、
 子供たちの人気のある番組調査では1位~5位までマンガ番組。
 それ以外のベスト5次点以下も九番組のうち三番組がマンガ、二番組がマンガ原作特撮という、マンガ番組が子供たちに広く受け入れられている結果となりました。
※1位『怪物くん』2位『ひみつのアッコちゃん』3位『サスケ』4位『魔法使いサリー』5位『巨人の星』ビデオリサーチと第一企画の調査、( 関東・関西・名古屋・九州での十三歳以下の子供だけの人気番組調査・TVガイド編集部集計、二月の一週間分まとめ )

 しかし、昭和44年のマンガ番組は、本放送・再放送合わせて3月の合計72本放送から4月は53本と放送本数を大きく減らしています。
 視聴率は良く、視聴者である子供たちの人気も有るのに、マンガ番組の放送本数が減少した背景にあるのは、最大のスポンサーである製菓メーカーのターゲットとする顧客層が児童からハイティーンへとシフトした事が大きく関係しており、記事は以下の様に当時の状況を伝えています。

 これまでは主力商品であったガムやキャラメルを子供たちにアピールするためにマンガ番組のスポンサーをしていた製菓メーカーでしたが、この時期の四・五年前から、日本のチョコレートの消費量は毎年50%ずつ増え、製菓メーカー大手五社の売上の80%はチョコレートで占められるようになり、製菓市場の高級商品化とそれによる各メーカーのチョコレート販売合戦は激化、
《「マンガ番組も、子供だけを相手にしていたのではダメ。もっと上の年齢層を狙わねばならない」これがマンガ番組をスポンサーが敬遠しはじめた理由だ 》
と記事にある様に、この時期、製菓メーカーが児童より購買力のあるハイティーンに向けた番組として、マンガ番組からアイドルを起用した番組・歌番組に内容を切り替え始めたのが大きな要因の様です。
 そして、Ⅿ製菓がチョコのコマーシャルに当時人気絶頂の “ タイガース ” を起用、この起用は売り上げに大きく貢献し、同社のチョコレートの売り上げは倍増。
 その結果、調査で子供人気1位を獲得する程であった『怪物くん』も終了となり、後番組はピンキーとキラーズの『青空に飛び出せ!』となりました。(『青空に飛び出せ!』は初回視聴率27.2% )

 それ以外にもスポンサーがマンガ番組を敬遠し始めた理由に、
《 融通がきかない、というのが原因ですよ。動画は金も製作時間もかかる。放送を決めて半年から一年くらい前から制作にとりかかる。 (中略) 人気が良ければいいが、悪くても途中で変えることができない。本数を消化するまでは、どうしようもないのですからね 》ーNETテレビ北代編成部長
《 製作費が高くても、これまでは海外販売やマーチャンダイジングの収入でカバーしていたからよかった。最近は、その面で伸び悩んでいる。うちが放送してきた「サスケ」のスポンサーも半年くらい前から動画じゃないものを、といってました。わたし個人としては動画のファンなんですが 》ーTBSテレビ宇田編成部長
と、動画の制作費の高さ、動画制作の融通の利かなさ、海外販売・キャラクター商品収入の伸び悩みがマンガ番組敬遠の理由として挙げられています。
 また、この頃から雑貨販売・おもちゃメーカーもキャラクター商品の販売は芳しくない状況で苦戦していた様です。( 大人気であった『ゲゲゲの鬼太郎』も売り上げは好調でしたが、販売のピークは半年ほどで、これは放映終了後売り上げが失速するキャラクター商品の宿命のような気もします )

 当時の動画制作費はドラマやテレビ映画と比較して高く、30分ドラマで200~250万円 ( 直接制作費 ) で制作できるのに対し、動画はその五割増し、カラー制作で十割増し以上。

 この様に放送局やスポンサー側から見て割高であった動画制作費ですが、視聴者が成長し動画にクオリティを求めるようになった事で、さらに制作費が嵩む様に成りました。
《 視聴者の目がこえてきて、動きがスムーズで、早くないと見てくれなくなった。そのため、コマ数を増やさないといい作品ができない 》ー東京ムービー
 そして、それらの要因が重なったことで動画の本数が減少し「製作プロダクション」特に下請けは「二十社以上」が倒産の危機に瀕していたと記事にはあります。

《 家族ぐるみ、ごっそりいただこう、という傾向が強まったためでしょう 》
ーフジテレビ小川映画部長
 その結果、ハイティーン・大人の視聴にも耐えられるマンガ動画制作が模索され、『カムイ外伝』『佐武と市捕物控』が製作されます。四月開始の『カムイ外伝』は視聴率17.2%と好評価で放送開始となり『佐武と市捕物控』も好評を博しましたが、これらの番組には放送時間帯の悩みがあった様です。
《 本来からすればゴールデンアワーの八時台がもっとも適している時間。ところが、八時台は一時間のもの ( 番 組 ) でなければならない。動画の一時間ものはとても無理。といって、六時から七時台ではおとなも見れる時間じゃないし、九時台だと逆に子供が見られない 》ー虫プロ
と、過渡期の模索は多岐に渡って続いていたようです。

 最後に記事は、
《 動画の減少を一時的なものと見る動画プロ界、時代の流れと見るスポンサー界、そして作品自体の質の向上が求められている過渡期と見るテレビ界、見方はそれぞれ違うが、共通しているのはアイディアの不足。怪獣ものブームを克服するような、すばらしいキャラクターが生まれないことが大きな原因。とにかくゴジラを上まわるものがない。いろんなものが登場したが、結局はゴジラの変形にすぎないですからね、とNETテレビの宮崎プロデューサーは言っている 》
と結んでいます。

 

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『ガロ』『COM』を含めて青年漫画誌が登場し、子供と大人の中間層を意識した漫画が多く発表されて漫画表現が変容してくるのと呼応するように、児童向けのマンガ番組も視聴者層の成長に合わせた模索が続いていた様子が記事から伺えます。
 過渡期に差し掛かって、動画制作プロダクションの金銭的にも、人的にも厳しい状況がこの記事から透けて見えるようで …

 この辺りは今も昔も変わらない悩みなのでしょうか、
 昨今 “ Netflix ” 等の参入で制作費が潤ってきているというのが本当ならば喜ばしいのですが、制作者の皆様の懐がどしどし潤いますように!