『どろろ』を巡る冒険或いは私的備忘録

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『AKIRA』と『it』の相似

 2019年、奇妙な同時多発を見て「長々オタクをやっていると面白いことがあるものだ」と感じたので、雑感を纏めてみます。

 まあ、単なる偶然で、その様に感じたのは私くらいでしょう。理屈と膏薬はどこにでもくっつくものですし、しばし由無しごとにお付き合いください。

 

 新アニメ『どろろ』が放映されていた2019年、二つの映画が話題になっていました。

 キングオブホラー “  スティーヴン・キング  ”  の『it -  “ それ ”  が見えたら、終わり』と、世界の “ 大友克洋 ” の『AKIRA』です。

 どちらも名作で、おすすめです。

『it - イット -』は映画も良いですが、小説を是非、御一読下さい。

 以下、あらすじと雑感を少々、結末に触れる部分もありますので、ネタバレが嫌な方は回れ右でお願い致します。

 

 

『it- “ それ ” が見えたら、終わり』

 主人公と、その仲間 “ ルーザー  (  負け犬  )  クラブ ” と自分たちで自嘲気味に名乗る子供たちは「いじめられっ子」で両親や成育歴に問題を抱えた被虐待児たちです。

 彼らと町に巣くって子供を喰う化け物ピエロ「ペニーワイズ」との戦いを書いたこの物語は、映画化されてヒット作となりました。モダンホラーですが、ビルディングスロマンとしての側面も優れており、それが高い評価につながったのでしょう。

 この作品の舞台となる「デリー」という町は怪物の災禍に定期的に見舞われており、町の人々はその難を逃れ生き延びた人々の子孫です。

 なので、事無かれ主義が徹底しており、子供たちが虐待されていても、住人が見て見ぬふりをするシーンが小説にも映画にも何度かあります。怪物は餌を得るためにこの町にかりそめの繁栄を与えており、町は豊かですが、怪物が目覚める23年ごとに子供たちは怪物に食われて犠牲になります。

 第一部では子供たちが戦って「ペニーワイズ」を撃退し、怪物は眠りにつきますが、退治することは出来ませんでした。

 第二部で大人になった彼らは、自身の持つ課題 ( 幼少期からの虐待による心的外傷 ) と対峙しながら困難を乗り越えて怪物を倒します。

 怪物が蜘蛛のような姿形で出産間近の母であったというのも何やら暗示的。

 そして、怪物が退治された後に繁栄していた町を崩壊が襲います。

 この辺の描写は容赦なく、かりそめの繁栄はかくも脆かったのだと思い知らされます。「ルーザークラブ」のメンバーは子供のころからの課題に蹴りを付け、成長し、それぞれの人生を歩みだします

 失うものもあり、得るものもある、いいエンディングでした。

 

 もう一つの作品『AKIRA』は大友克洋先生原作・監督の名作です。

 2019年は劇中で舞台となった年で、それを記念して、リバイバル上映、コンサートなど多くの催し物が開催されました。

 

 さて、この物語には老人のような容姿の “ ナンバーズ ” と呼ばれる子供たちがいます。親に売られ実験体となった彼らは「超能力」を持ちますが弱弱しい存在です。

 また、実年齢は中年ですが、実験体とされた為に “ 成長できなかった ” 彼らは老人にも子供にも見える容姿に描かれます。親に売られ、国家に食われている成長できなかった子供たちです。 -そして、物語の最後に都市は大崩壊を迎えます。

 子ども ( 未 来 ) を喰って繁栄している都市あるいは国家は崩壊してしまうのです。

 

 新アニメ『どろろ』も魔神が “ 百鬼丸 ” を喰って国が繁栄している設定でしたが、崩壊は訪れませんでした。最後にどろろが「金だよ」とか言うんですけど、武力や魔神の力よりまし ( ? ) かもしれませんが “ マネー ” がそれらにとって代わる世の中は本当に良い世の中なのか、疑問です。

 大国・大企業が文字通り “ 人の尊厳、自由 ” を奪って、経済の力でねじ伏せているのを見ると「金が力」も明るい未来に結び付くとは考え辛い気がします。

 

  まあ、「Not for me」案件なのですが、

 私は物語の筋の悪さは否めないし、創作者としてのセンスも?だと思いました。

 

 『子供たちを犠牲にしてかりそめの繁栄を得ていた都市の崩壊』

 2019年に、これら3つの作品が同時多発したのは面白い偶然だと思いませんか?